第1話
新橋駅の5番出口を出たところに喫茶店アマンドがある。早番だった寿美子に聞きたいことがあると言ってここに呼び出した。寿美子は職場のあるテレコムセンター駅から、新交通ゆりかもめを使って新橋まで戻ってくる。
「ねえ、ほかに男がいるんじゃない?」
2階の方の客席は人影もまばらで、それだけに自分の声の大きさが気になる。寿美子は派遣で通信販売会社のコールセンターのオペレーターをしている。窓の外はまだ厳しい残暑の街だが、店の中は冷房が効きすぎていて寒いくらいだ。
寿美子とこういう関係になってもうすぐ6年。俺は結婚していて2人の娘がいる。寿美子はバツイチで娘が1人。
「いないって前にも言ったでしょ。」
「正直に言いなよ。」
「しつこいなあ。」
「今日という今日は本当のことが聞きたい。」
「本当だってば。」
「本当のこと聞いて寿美子と別れたい。」
「別れてくれるの?」
寿美子はもう何年も前から俺と別れたがっていた。と言うより結婚できる男と付き合いたがっていた。この6年の間、何回別れ話をしただろうか。その度にもう一度やり直そうという話になった。でも今回はいつもと違うような気がする。
俺が男の影に気付き出したのは去年のクリスマスイブだった。寿美子は中学3年生の娘の同級生の両親から、クリスマスパーティーに誘われたので行くと言っていた。その時点で俺は言い様のない不自然さを感じていた。
クリスマスイブはどの家庭でもクリスマスイブ。俺は自宅で家族といつもと変わらぬクリスマスイブを過ごした。
寿美子とは3日前に済ませた。有楽町の日比谷シャンテの地下にあるリストランテ・フレスコというイタリアンで、寿美子が新聞広告で探してきたという店だった。一人2千5百円のコースでフルボトルのハウスワインが1本付いてくる。リーズナブルな料金で且つ料理も満足行くものだった。寿美子はこういう店を見つけてくるのが上手い。俺もグルナビなどて探したりするのだが、情報量で勝る割りには寿美子のチョイスに勝てない。
妙な胸騒ぎを覚えた俺は、家族でクリスマスを祝った後、仕事部屋から9時頃携帯メールを出してみた。
『もう終わった?』
10分待ってもメールは帰ってこない。普通ならこの程度で返ってこなくても、どうとも思わないのだが、不安になっている俺は寿美子の携帯に電話を掛けてみた。ドアを開けたすぐ左は妻や子供たちがテレビを見ているリビングの扉だが、そんなことを気にする余裕はなかった。呼び出し音が鳴った。いくら鳴らしても出る気配がない。寿美子の携帯は留守番電話サービスに入っていない。電話に出ない時は、メールするから入らなくていいと俺が言ったのだった。名義人は俺であった。俺が契約しているドコモのファミリーに入ることで、二人の間のメールは無料、通話は30%割引になるからだった。
呼び出し音は虚しく鳴り続いた。俺は一旦電話を切った。呼び出し音は鳴るが出ないというのはどういう状況だろうか。女性は携帯をバッグに入れていることが多いので、バイブにしていると気付かないことがある。現に寿美子もそういうことがたまにあった。でも何故かそうではないと思う自分であった。
今、これ以上できることがない。俺はリビングに戻った。
「たっくん、何してるの?」
妻の雪子が問いかけた。
「仕事だよ。」
俺はフリーランスで仕事をしている。家と外、半々で。だから家に仕事部屋がある。部屋にこもっていても仕事と言えば通る。
「そう。コーヒー飲む?」
「うん。」
俺は気もそぞろで返事をした。
幼稚園に通っている下の娘はもう寝ている。3LDKの賃貸マンションの南に面した少し広めのリビングの西隣は6畳の和室で、そこを寝室に使っている。今、襖は開け放たれてあり、小さな布団に納まっている娘の寝顔が見える。上の小5の娘はまだリビングでテレビを見ていた。
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「ねえ、ほかに男がいるんじゃない?」
2階の方の客席は人影もまばらで、それだけに自分の声の大きさが気になる。寿美子は派遣で通信販売会社のコールセンターのオペレーターをしている。窓の外はまだ厳しい残暑の街だが、店の中は冷房が効きすぎていて寒いくらいだ。
寿美子とこういう関係になってもうすぐ6年。俺は結婚していて2人の娘がいる。寿美子はバツイチで娘が1人。
「いないって前にも言ったでしょ。」
「正直に言いなよ。」
「しつこいなあ。」
「今日という今日は本当のことが聞きたい。」
「本当だってば。」
「本当のこと聞いて寿美子と別れたい。」
「別れてくれるの?」
寿美子はもう何年も前から俺と別れたがっていた。と言うより結婚できる男と付き合いたがっていた。この6年の間、何回別れ話をしただろうか。その度にもう一度やり直そうという話になった。でも今回はいつもと違うような気がする。
俺が男の影に気付き出したのは去年のクリスマスイブだった。寿美子は中学3年生の娘の同級生の両親から、クリスマスパーティーに誘われたので行くと言っていた。その時点で俺は言い様のない不自然さを感じていた。
クリスマスイブはどの家庭でもクリスマスイブ。俺は自宅で家族といつもと変わらぬクリスマスイブを過ごした。
寿美子とは3日前に済ませた。有楽町の日比谷シャンテの地下にあるリストランテ・フレスコというイタリアンで、寿美子が新聞広告で探してきたという店だった。一人2千5百円のコースでフルボトルのハウスワインが1本付いてくる。リーズナブルな料金で且つ料理も満足行くものだった。寿美子はこういう店を見つけてくるのが上手い。俺もグルナビなどて探したりするのだが、情報量で勝る割りには寿美子のチョイスに勝てない。
妙な胸騒ぎを覚えた俺は、家族でクリスマスを祝った後、仕事部屋から9時頃携帯メールを出してみた。
『もう終わった?』
10分待ってもメールは帰ってこない。普通ならこの程度で返ってこなくても、どうとも思わないのだが、不安になっている俺は寿美子の携帯に電話を掛けてみた。ドアを開けたすぐ左は妻や子供たちがテレビを見ているリビングの扉だが、そんなことを気にする余裕はなかった。呼び出し音が鳴った。いくら鳴らしても出る気配がない。寿美子の携帯は留守番電話サービスに入っていない。電話に出ない時は、メールするから入らなくていいと俺が言ったのだった。名義人は俺であった。俺が契約しているドコモのファミリーに入ることで、二人の間のメールは無料、通話は30%割引になるからだった。
呼び出し音は虚しく鳴り続いた。俺は一旦電話を切った。呼び出し音は鳴るが出ないというのはどういう状況だろうか。女性は携帯をバッグに入れていることが多いので、バイブにしていると気付かないことがある。現に寿美子もそういうことがたまにあった。でも何故かそうではないと思う自分であった。
今、これ以上できることがない。俺はリビングに戻った。
「たっくん、何してるの?」
妻の雪子が問いかけた。
「仕事だよ。」
俺はフリーランスで仕事をしている。家と外、半々で。だから家に仕事部屋がある。部屋にこもっていても仕事と言えば通る。
「そう。コーヒー飲む?」
「うん。」
俺は気もそぞろで返事をした。
幼稚園に通っている下の娘はもう寝ている。3LDKの賃貸マンションの南に面した少し広めのリビングの西隣は6畳の和室で、そこを寝室に使っている。今、襖は開け放たれてあり、小さな布団に納まっている娘の寝顔が見える。上の小5の娘はまだリビングでテレビを見ていた。
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