第7話
今年の正月の疑惑・・・
結局、前の年は、クリスマスイブの翌日に、寿美子の自宅の近くまで押し掛けて、問い詰めたのが、寿美子に会った最後だった。そのあと寿美子は、予定通りクルーザーに乗ると言って、待ち合わせの新橋まで行ってしまった。俺は新橋駅まで一緒に地下鉄で行き、改札を出て寿美子と分かれ、JRに乗り、帰った。待ち合わせ場所に誰がいるか見て行けばと寿美子に勧められたが、そう言うからには、見られても尻尾をつかまれることはないと思ってのことだろうから、無駄なことはしなかった。また、そこまでする男では、いたくなった。
年が明けた今年の1月2日、俺と寿美子は渋谷で待ち合わせをした。
渋谷で待ち合わせるというのは、円山町のラブホテルに行くということが二人の暗黙の了解だ。
どんなに疑っていても、俺は寿美子のことを愛している。今年最初に寿美子と愛し合えることを、俺は楽しみにしていた。年が変わって、寿美子との関係が、良い方向に戻ることを、俺は願っていた。不思議なもので、新年というのは、人の気持ちまで新しくする。そのこと自体は、問題を解決させる力など持っていないと解っていても。
俺は朝、仕事に行くと妻に言って、家を出た。
フリーランスという仕事だからこそ、こういうことができるのだろう。
これが、普通のサラリーマンだったら、正月に働くと言って外に出ることは、難しいに違いない。
待ち合わせは正午だった。
ハチ公前交番横のJRの改札口が、いつもの待ち合わせ場所だ。
俺は12時よりも少し前に着いた。
どうせ寿美子は、まだ来てないだろうと思って改札を出た。
ところが、交番の前に寿美子の後ろ姿が見えた。
こちらにはまだ、気付いていない。下を向いて一点を見つめている。携帯をいじっているようだ。
俺は、寿美子の後ろから
-と言っても、どの道、寿美子に近づくには、後ろからしかないのだが-
近づいた。
寿美子は、俺に気付いて、はっとした表情をした。次の瞬間、慌てて携帯をハンドバッグの中にしまった。
その時しまった携帯電話を、俺は見逃さなかった。
今まで寿美子が使っていた携帯とは、明らかに違う。
寿美子は見るからに狼狽していた。
「何、その携帯?」
俺は、新年の挨拶をする前に、その携帯に対する質問をした。
寿美子が今まで使っていた携帯は、俺と選んだものだった。
携帯など、どんなものでもいいと言う寿美子は、ドコモのムーバの古くなった機種を安く買った。
しかし、今見た携帯は、まったく違うものだった。
どこかで見覚えがある。
音楽が聴けることを謳い文句にした携帯だと思う。折り畳むと真四角なデザインは、斬新と言えばいいのだろうか。俺にはそのセンスが理解できないが。街中で見掛けたことは、一度もなかった。その携帯を今、寿美子が持っていた。
それにしても、新年最初にかけた言葉が疑いの言葉とは、俺の寿美子と良い関係に戻りたいという、ささやかな希望は、年が明けて2日ともたずに、打ち砕かれた。
「なんでもないよ。」
「なんでもなかったら、いつもと違う携帯持たないでしょ。なんなの、その携帯?」
寿美子の携帯電話は、俺名義である。名義人自らか、名義人の許可がなければ、機種変更はできないはずである。まさか、2台目を買ったのか?浮気相手用に。
俺は待ち合わせの人々で、かなり混んでいる交番の前で、寿美子を問い詰めた。何故こうも、短い間に自分の恋人を、立て続けに詰問するはめになるのだろうか。自分でも、うんざりする。
「間違って、みいちゃんの携帯、バッグに入れて来ちゃったんだよ。」
「はあ?間違って人の携帯、自分のバッグに入れる人がいるわけないじゃん。似てるんならともかく。それに、みいちゃん、携帯なんて、持ってなかったじゃん。」
「それが、この間、抽選で当たったんだよ。せっかくだから、契約したんだ。」
「なんの抽選?」
「私も良く解らないけど、どこかでもらった応募葉書、送ったらしいよ。」
「人の携帯のメール、なんで見てるの?」
「見てないよ。」
「じゃあ、今、なんで開いてたの?」
「みいちゃんからメールが来るから。」
「今、見てないって言ったじゃん。それにみいちゃんは、何からその携帯にメールするわけ?」
「私の携帯だよ。」
「寿美子は娘に、自分の携帯に入ってる内容、見られてもいいわけ?俺とのやり取り、全部見られるじゃん。」
寿美子が自分の携帯に、一切、セキュリティーをかけていないのを、俺は知っている。
「そんなこと、する子じゃないよ。」
「そんなわけ、ないじゃん。例え、置いてある携帯は、勝手に見たりしないにしても、使わせれば見るに決まってるじゃん。」
「そんなことないよ。」
寿美子の言い訳は、いつも見え見えで、言い訳の下手さに腹が立つことがある。騙されるなら、騙されていることに気付かないくらいの方が幸せだという、ひとの言葉につくづく同感する。
「その携帯、ちょっと見せてよ。」
「だめだよ。」
「なんで?」
「みいちゃんのだもん。」
「中身まで見せてとは言わないから、みいちゃんのだって判る部分を見せてよ。メールのタイトルとかで、大体判るでしょ。」
「できない。」
「なんで。」
「みいちゃんのだから。」
「だから、みいちゃんの物だってこと、証明してよ。」
「じゃあ、帰る。」
「はあ?なんで?」
これを逆切れと言わずに、何を逆切れと言うのだろうか。開き直りにも、ほどがある。
「そこまで拓磨に言われたくないよ。」
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結局、前の年は、クリスマスイブの翌日に、寿美子の自宅の近くまで押し掛けて、問い詰めたのが、寿美子に会った最後だった。そのあと寿美子は、予定通りクルーザーに乗ると言って、待ち合わせの新橋まで行ってしまった。俺は新橋駅まで一緒に地下鉄で行き、改札を出て寿美子と分かれ、JRに乗り、帰った。待ち合わせ場所に誰がいるか見て行けばと寿美子に勧められたが、そう言うからには、見られても尻尾をつかまれることはないと思ってのことだろうから、無駄なことはしなかった。また、そこまでする男では、いたくなった。
年が明けた今年の1月2日、俺と寿美子は渋谷で待ち合わせをした。
渋谷で待ち合わせるというのは、円山町のラブホテルに行くということが二人の暗黙の了解だ。
どんなに疑っていても、俺は寿美子のことを愛している。今年最初に寿美子と愛し合えることを、俺は楽しみにしていた。年が変わって、寿美子との関係が、良い方向に戻ることを、俺は願っていた。不思議なもので、新年というのは、人の気持ちまで新しくする。そのこと自体は、問題を解決させる力など持っていないと解っていても。
俺は朝、仕事に行くと妻に言って、家を出た。
フリーランスという仕事だからこそ、こういうことができるのだろう。
これが、普通のサラリーマンだったら、正月に働くと言って外に出ることは、難しいに違いない。
待ち合わせは正午だった。
ハチ公前交番横のJRの改札口が、いつもの待ち合わせ場所だ。
俺は12時よりも少し前に着いた。
どうせ寿美子は、まだ来てないだろうと思って改札を出た。
ところが、交番の前に寿美子の後ろ姿が見えた。
こちらにはまだ、気付いていない。下を向いて一点を見つめている。携帯をいじっているようだ。
俺は、寿美子の後ろから
-と言っても、どの道、寿美子に近づくには、後ろからしかないのだが-
近づいた。
寿美子は、俺に気付いて、はっとした表情をした。次の瞬間、慌てて携帯をハンドバッグの中にしまった。
その時しまった携帯電話を、俺は見逃さなかった。
今まで寿美子が使っていた携帯とは、明らかに違う。
寿美子は見るからに狼狽していた。
「何、その携帯?」
俺は、新年の挨拶をする前に、その携帯に対する質問をした。
寿美子が今まで使っていた携帯は、俺と選んだものだった。
携帯など、どんなものでもいいと言う寿美子は、ドコモのムーバの古くなった機種を安く買った。
しかし、今見た携帯は、まったく違うものだった。
どこかで見覚えがある。
音楽が聴けることを謳い文句にした携帯だと思う。折り畳むと真四角なデザインは、斬新と言えばいいのだろうか。俺にはそのセンスが理解できないが。街中で見掛けたことは、一度もなかった。その携帯を今、寿美子が持っていた。
それにしても、新年最初にかけた言葉が疑いの言葉とは、俺の寿美子と良い関係に戻りたいという、ささやかな希望は、年が明けて2日ともたずに、打ち砕かれた。
「なんでもないよ。」
「なんでもなかったら、いつもと違う携帯持たないでしょ。なんなの、その携帯?」
寿美子の携帯電話は、俺名義である。名義人自らか、名義人の許可がなければ、機種変更はできないはずである。まさか、2台目を買ったのか?浮気相手用に。
俺は待ち合わせの人々で、かなり混んでいる交番の前で、寿美子を問い詰めた。何故こうも、短い間に自分の恋人を、立て続けに詰問するはめになるのだろうか。自分でも、うんざりする。
「間違って、みいちゃんの携帯、バッグに入れて来ちゃったんだよ。」
「はあ?間違って人の携帯、自分のバッグに入れる人がいるわけないじゃん。似てるんならともかく。それに、みいちゃん、携帯なんて、持ってなかったじゃん。」
「それが、この間、抽選で当たったんだよ。せっかくだから、契約したんだ。」
「なんの抽選?」
「私も良く解らないけど、どこかでもらった応募葉書、送ったらしいよ。」
「人の携帯のメール、なんで見てるの?」
「見てないよ。」
「じゃあ、今、なんで開いてたの?」
「みいちゃんからメールが来るから。」
「今、見てないって言ったじゃん。それにみいちゃんは、何からその携帯にメールするわけ?」
「私の携帯だよ。」
「寿美子は娘に、自分の携帯に入ってる内容、見られてもいいわけ?俺とのやり取り、全部見られるじゃん。」
寿美子が自分の携帯に、一切、セキュリティーをかけていないのを、俺は知っている。
「そんなこと、する子じゃないよ。」
「そんなわけ、ないじゃん。例え、置いてある携帯は、勝手に見たりしないにしても、使わせれば見るに決まってるじゃん。」
「そんなことないよ。」
寿美子の言い訳は、いつも見え見えで、言い訳の下手さに腹が立つことがある。騙されるなら、騙されていることに気付かないくらいの方が幸せだという、ひとの言葉につくづく同感する。
「その携帯、ちょっと見せてよ。」
「だめだよ。」
「なんで?」
「みいちゃんのだもん。」
「中身まで見せてとは言わないから、みいちゃんのだって判る部分を見せてよ。メールのタイトルとかで、大体判るでしょ。」
「できない。」
「なんで。」
「みいちゃんのだから。」
「だから、みいちゃんの物だってこと、証明してよ。」
「じゃあ、帰る。」
「はあ?なんで?」
これを逆切れと言わずに、何を逆切れと言うのだろうか。開き直りにも、ほどがある。
「そこまで拓磨に言われたくないよ。」
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